顧客企業の求人情報から受託システム開発契約の単価を決める話(フリーランス・零細企業向け)

準委任契約でシステム開発を受託する際の契約単価、どう決めてますか?

相場といわれる額とか、過去の自分の実績額とか、もしくは自分の生活必要な年収からの逆算とか、勘や経験や度胸に近いもので決めてる人が大半なんじゃなかろうかと思います。ただ、それだけだと単価交渉する際に弱いんで、一例としてそれっぽい算出式を書いてみます。

フリーランスや零細企業が、いわゆる事業会社と直接契約するようなケースと考えてもらえばいいです。

算出式

(顧客企業の給与年額 × (1 + 休暇/残業係数 + 福利厚生係数 + 利益/リスク係数) + 受託側の一人当たりの年間経費)

これで年額が出るので、月額単価の場合は 12 で割って、時間単価の場合は 1920 (160h×12)で割ってください。顧客企業側の1日の基準労働時間が8hではなく、7.5hとか6hだったりする場合もあるので、その場合の時間単価の計算は適時修正してください。

なお、この計算式で算出された金額は、消費税は含まない税抜価格です。

顧客企業の給与年額

顧客企業の求人ページや転職者向けの口コミサイト等で、「もし正社員として採用された場合の」給与レンジや平均給与額等を調査します。賞与、住宅手当/家族手当等の各種手当や交通費等も全て含めた額面給与です。

これが一番重要な作業です。エンジニアにカネを払う気がない企業(もしくは単純にカネのない企業)がここから判定できます。カネを払う気がなければ、必然的に社員の給与額も下がり、外部委託業者への支払いも渋くなります。

当然、すべての情報が開示されているわけではないので、あくまで推定になります。雑にやると、求人ページに記載されている想定年収に、交通費等の30-40万円を足した金額で考えればいいかなと思います。

休暇/残業係数

いわゆる有給休暇の分を割増します。顧客企業の正社員には有給休暇があります。仮に有給休暇が20日ある場合は、年間に実際に労働しているのは12か月分ではなく11か月分です。受託側はこれを加味して金額を補正しないと、この分は無償奉仕してるのと同じ状態になります。

有給20日の場合、係数として 9-10% (12÷11-1=9.09%) ぐらいで考えます。

もし、残業(超過労働・深夜労働)が恒常的に発生することが見込まれる場合、正社員であれば割増賃金を払う必要があるため、当然その分を割増します。簡易的に残業割増率を50%として、月に20時間ぐらい発生が見込まれる場合は、6-7% (20÷160×0.5 = 6.25%) ぐらいは更に割増する必要があります。

福利厚生係数

社員を雇う場合、企業側には、法定内福利費(社保+厚生年金)、法定外福利費(スポーツジム補助とか飲み会補助とか)、採用教育費がかかります。これも当然加味します。

会社経営において、額面給与額の2-3割 が会社負担の福利厚生費の目安額といわれるので、30% を係数として採用します。

この係数はよほど特殊なことをやっている会社でない限りは大して変わりません。無料の社食をやっていたりとかするケースもありますが、社食とかは完全にスケールメリットが効く領域なので、係数が変わるほどの影響はありません。

利益/リスク係数

正社員には解雇規制がありますが、外部委託する場合にはそんな法規制はありません。様々な要因で急な契約解除が出るリスクがあります。このリスク分を割増請求する必要があります。また、フリーランス・法人共に売上が上がれば所得税がかかるし、住民税もかかるので、それも加味して利益を確保する必要があります(ちなみにこの一連の計算をするは消費税は含まないようにしてください)。

ここはかなり幅が出る係数で、長期契約が見込まれる場合は係数を低めにしてもOKで、急に契約解除される可能性が高い場合は係数を高くする必要があります。

私個人の考え方としては、この係数の最低値は 20-25% と考えています。契約解除保証料(正社員に対する解雇補償金)が年額に対して約2.5-3.0か月分に設定していると考えればよいです。リスクが非常に高い場合は 50% ぐらいに設定しても妥当な数値かと思います。

受託側の一人当たりの年間経費

会計でいうところの、一人当たりの器具備品費+販管費です。この項目は係数ではなく固定額となります。

オフィス賃料や電気代とかの固定費や、PC購入代やGitHub税やAdobe税やVisualStudio税とかも含めて考えます。経理や営業等の実働コストも含めます。フリーランスの場合、決算を自前でやっちゃってる人もいると思いますが、それも金額ベースに落とします。

私の感覚では、フリーランスから零細企業ぐらいだと、80-150万円ぐらいかかっている(年度計画時の予算として計上してる)かなぁという認識です。

試算

  • 休暇/残業係数 : 10% (有給20日、稀に残業があるかも)
  • 福利厚生係数 : 30%
  • 利益/リスク係数 : 25% (急な契約解除が発生する可能性は低め)
  • 受託側の一人当たりの年間経費 : 100万円

このようなリスクを低めにした想定で、顧客企業の給与年額を変化させていくと、

  • 想定年収 500万円 -> 年商925万円(77.0万円/月)
  • 想定年収 600万円 -> 年商1090万円(90.8万円/月)
  • 想定年収 700万円 -> 年商1255万円(104.5万円/月)
  • 想定年収 800万円 -> 年商1420万円(118.3万円/月)
  • 想定年収 900万円 -> 年商1585万円(132.0万円/月)
  • 想定年収 1000万円 -> 年商1750万円(145.8万円/月)
  • 想定年収 1100万円 -> 年商1915万円(159.5万円/月)
  • 想定年収 1200万円 -> 年商2080万円(173.3万円/月)

みたいな感じになります。繰り返しですが、顧客企業側の想定年収は交通費も含んだ額面だということと、年商の方は税別価格なので注意してください。

最近は東京23区内だと月単価の下限値で80万円を超えてきているという相場実態から考えても、こんなもんかなという感じがします。

「自分の給与額面の3倍の売上がないとダメ」みたいなコメントが付くことを想定して予め回答しておくと、広告宣伝費が零細企業とは全然違ったり、研究開発とかのファクターを考慮してなかったりするので、そのあたりは自分の状況合わせて計算式や係数を変えてください。あくまでもこれは、フリーランス・零細企業向けの計算例です。

まとめ

カネのある企業と付き合わないとカネにならんですね。社会は厳しい。