人月単価で80万円ぐらいの仕事
Twitterでこういうことを書いたら、そこそこ反応があった。
今のご時世、技術難易度が並ぐらい(一人でWebシステムが構築できる程度)で、2‐3人月ぐらいの小さなシステムを一人でヒアリング~実装~運用引き渡しができて、説明責任ちゃんと果たせれば、人月単価換算で80万円ぐらいは一杯転がってる(常にあるとは言ってない)し、その他要因で単価はもっと上がる
— てるろー (@terurou) 2018年4月17日
意図通りには伝わらないだろうなぁと思いつつ、所詮Twitterだしなーと思いぶん投げたんだけど、想定してた範疇の誤解が広まってきたので、一応補足する。
「人月単価で80万円ぐらいの仕事」の難易度
ちゃんと書いてないから伝わらなくて当然といえば当然なんだけど、行間をちゃんと補うと、
- エンドユーザー直案件
- 技術難易度的には、いわゆるマスタメンテナンス機能に毛の生えた程度のもの
- 実装技術とは別で、現状の業務分析であったり、システム化後の運用フローがどうなるかを考えたり、開発完了後の導入やユーザー教育(操作方法レクチャー)を行うことが必要
割と具体的な例を出すと、経費精算みたいな社内業務。
こんな感じの業務を、業務フローを見直しつつ、システム化していくみたいな話。この要件を80万円で1か月で作るという話ではないし、ヒアリングしたら印刷が必要だとか会計システムとはAPI連携が必要だとか、ミッションクリティカルなシステムだとか、セキュリティの事をちゃんと考えないとダメだとか、技術難易度が上がる要素があれば当然その部分は単価を80万円から割り増しする。
上記の業務例を、単価レンジ80万円で対応できる内容に落とすと、
- ユーザーロールは一般ユーザーと承認者の2つ
- 一般ユーザーはWebフォームに申請内容を入力し、入力ができたら申請ボタンを押す
- 承認者は一覧画面で未承認のデータが検索でき、個別に内容を確認して承認ボタンを押す
- 一覧画面で年月を指定して承認済みデータが検索でき、該当データの一覧がCSVファイルとして出力できる
- あわよくば会計・給与システムと連携できるCSVフォーマットになっているとよい
- インターネット非公開(社内からしかアクセスできない)サーバーに配置して、サーバーにアクセスできる人ならデータ自体は誰でも見えてOK
- サーバー構築は不要(今時だと何らかのSaaS上に構築するみたいのが多いと思う)
- 対応ブラウザはPC版Chromeのみ
という程度のシステム化具合。業務要件のヒアリング・設計・開発・システムテスト・ユーザーテスト兼ユーザー教育・導入初期の運用・不具合サポートみたいなところをもろもろやると、2-3人月かかるよねぇ、単価と期間を掛け算して最終的な請求額は200万円ぐらいかなぁ、という感じ。実装部分だけ抜き出すと1か月分相当ぐらいだろうし、使うフレームワークやSaaSや技術の練度によってはもっと期間短縮したりできるとは思う。あと、フル稼働が必要な部分は実装~システムテストの部分だけで、それ以外はお客さんからの回答待ちや待機のような拘束時間には変わりはないが実質何もしてないみたいな時間もある。
人月単価80万円ぐらいという相場感
前述の例のような紙やらExcelで日常業務を回してるところは大量に存在していて、当人たちも効率が悪いことは自覚していてシステム化も検討してはいる。しかし、SIerに相談するとクソ高い見積もりが出てくるとか、仕事のロットが小さすぎるから請けてくれないとか、過去発注したシステムが金をかけた割にクソだった経験があるとかで、結局放置されていることが本当に良くある。
そういった相手に話をする際に、基準となってくるのが80万円ぐらいかなぁというのが個人の肌感覚である。もちろん仕事でやっていく際は、相手の懐具合を見て多めに要求することもある(実際には相手が大きな会社だと、AD連携がどうとか、瑕疵の保証がどうとかの要素が増えてくるので、懐具合関係なしに割増が生じる)し、逆に予算がほぼないところもある。
ここまで書いて、会社によって営業費とか間接費のかけ方が違うので「人月単価80万円では安すぎる」という話はあるでしょう。ただ、繰り返しになるが、ある程度の規模のSIerだと単価レンジが80万円の2-3倍ぐらいになるはず(前述の例だと請求額で500万円を超えてきたりとか)で、これが高すぎるからシステム化出来てないみたいのは腐るほど存在している。
80万円という単価レンジは、クライアントから見ると割安な価格設定に見える。同時に営業費用をあまりかけていない会社であっても単価80万円を割ってくると、おちんぎんが少なくなるので、ここは守らないといけないラインかなと設定している。
人月単価80万円ぐらいの仕事を工夫して、割の良い仕事にする
ジョイゾーさん
直接話をしたことはないので私が勝手にそう思ってるだけですが、ジョイゾーさんのKintone SIがこんな費用感をベースにやっている認識です。
まともに開発すると2-3か月かかるような話をテンプレートを適用していくことで開発工数を減らすものと、テンプレートではどうにもならないものを1週間20万円で対応しますよというもの。
弊社の例
アジャイル開発契約というか、ソニックガーデンさんの「納品のない受託開発」もどきというか、みたいな定額制の契約モデルで請けているお客さんがいる(全てではない)。
「納品のない受託開発」もどきの定額制の契約モデルというのは、
- 納品自体はしている
- 月額費用は数十万円ぐらい(作業ボリュームに合わせて調整)
- 開発初期はどうしても労力が大きいので、ギリギリ赤字にならないレベルの額を初期費用として請求している
- 最低限の機能を実装した段階でお客さんに納め、運用しながら改善をしていく
- 毎月1回定期訪問して、改善点等のヒアリングを行う
- 月間に対応できる改善工数に上限値があり、それをどうしても超えたい場合は別途お見積りで対応
- 対応速度はベストエフォート(手が空いている場合は即日対応、契約上は10営業日以内に着手)
というように、費用・開発規模共にスモールスタートでやって長期的に改善をおこなっていき、売上的には初期導入費用+月額サブスクリプションみたいな感じになっていて、トータルで見たときに単価80万円ぐらいに設定している。効率的に仕事を捌けば実際の作業に対する売上効率は良くなる。
これの良いところは、
- 初期費用を抑えていて、納品後も機能追加を継続的に行うことが前提になってるので、開発スコープの絞り込みで合意が取りやすい
- 「とりあえず優先順位の高いこれに絞りましょう」「実際に使い始めて足りなかったら機能追加しましょう」
- 安定稼働して、ユーザーもシステムに慣れてくると、やることがかなり減ってくる
- 継続的な収入があって、構造的に作りすぎが発生しにくいので、瑕疵対応がつらくない(お客さん側も機能改善の一環として見てくれることが多い
- 毎月1回定期訪問すると、納品したものとは別のシステム化の話が出てくるので、お金をもらいながら営業してる状況になる
といったところ。
悪いところ?としては、プログラミング言語の知識とかを生かすことがほぼなくて、本当にITコンサルタント的な動き方になるので、技術だけやりたいみたいな人だとやりたがらない。
追記:運用・改善フェーズに入ったら、 月々の実稼働が1日と想定して10万円みたいな価格設定 になっている(実際の想定日数とか、技術難易度とかで割り増しはある)。当然運用は長期になるので、大儲けはないが効率の良いお仕事。あと、運用してる間に「あれもシステム化したい」みたいな話は当然出てくるので、「それも初期開発は別料金になりますねー」みたいなサイクルが続く。
追記2:この話の文脈